歩けないほどの人混みが台湾台北市の世界貿易中心に集まった。台北ゲームショウ2017のためだ。PlayStation、セガ、バンダイナムコ、コナミ、ミクシィ XFLAG スタジオ(以下XFLAG スタジオ)など、日本のゲーム会社は大きなブースを構えている。ステージイベントに日本人クリエイターが登壇すると大声で叫ぶ人、必死に手を振る人、感動のあまり泣き出しそうな人までいる。台北ゲームショウ2017はとにかくすごい熱気が伝わってき、ファンの反応は東京ゲームショウをはるかに上回る。 
台北ゲームショウ2017のPlayStationブースにて。

楽しませ甲斐のある人々

「日本人クリエイターもここに来ると大スターになった気分が味わえるんです」
「国民性の違いでしょうね。大人しい日本人と比べて、私たち台湾人は感情を表に出すのが好きです。だから、日本人クリエイターもここに来ると大スターになった気分が味わえるんです」と台北ゲームショウ2017の主催者であるJesse Wu氏は楽しそうに語る。
台湾でも大人気のスマートフォンゲーム「モンスターストライク」を手掛けるXFLAG スタジオの総監督・木村弘毅氏も台湾人ファンが日本人と比べて熱狂的で、ゲームに対してだけでなく、クリエイターに対する愛も強いと言う。
台湾で最も人気の高い日本のIPの1つとして知られる「龍が如く」シリーズの名越稔洋監督も昨年9月、IGN JAPANとのインタビューで「台北とかでイベントをやると、ものすごい熱心な方とか来られますね。泣いてる人とかもいました(笑)。日本人は泣いてくれないから。ピュアですよ、向こうのユーザーは非常に」と話した。
「龍が如く」シリーズで知られる名越稔洋監督
約1年半にわたって、台湾に在住した経験のある筆者は、初めて現地の映画館に行ったときが刺激的だった。2013年のことで、宮崎駿監督の最後の作品と言われていた「風立ちぬ」を観に行ったのだ。観たことのある読者なら、これが大声で笑う映画でもなければ、声をあげてびっくりするような映画でもないことはわかると思う。ところが、映画館にいたほとんどの人はほんの小さな出来事でも快く笑ったり、驚きも戸惑うことなく露わにした。実に感情豊かで、映画であるにせよ、ゲームであるにせよ、非常に楽しませ甲斐のある人々なのだとそのときに気づいた。

台湾人ゲーマーの今と昔

台北ゲームショウ2017は最初から違う。10時に一般開場になると、みんな一気に走り出すのだ。少しでも早く自分の大好きなゲームをプレイしたくて、必死だ。
1月19日、台北ゲームショウ2017が開場してから走り出すゲーマーたち。
彼らの多くは日本のゲームが目当てだ。筆者は複数の来場者にどのゲームをプレイしに来たかと聞いたが、その約半分は日本のゲームを答えた。「仁王」、「鉄拳」、「ペルソナ5」、「エースコンバット7」、「サマーレッスン」など、ジャンルの幅も広い。PS4をはじめとするコンソールゲームはどうしても多くなってしまうが、「モンスターストライク」といったスマートフォンゲームも熱烈なファンがいた。
活気にあふれる「モンスターストライク」のブース。
任天堂不在のゲームショウであることは、東京ゲームショウと大きな共通点だ。
だが、3DSやPS Vitaといった携帯ゲーム機のタイトルはほとんど出展がなく、来場者からも携帯ゲーム機のタイトルについては聞かなかった。任天堂は出展していないし、PS Vitaの人気もいまいちのようなので仕方がないかもしれない。ちなみに、台北ゲームショウが任天堂不在のゲームショウであることは、東京ゲームショウと大きな共通点だ。
台北ゲームショウ2017の主催者Jesse Wu氏に台湾人ゲーマーの傾向について聞いた。
「台湾はもともと、PCゲームの市場としてスタートしました。88年からあるSoftstar(大宇資訊)という台湾のゲーム会社は「軒轅剣」や「仙剣奇侠伝」と言ったPCのRPGタイトルで一世を風靡しました。だが、同時に日本のファミコンも人気がありましたね」
Softstarの「仙剣奇侠伝」のタイトルスクリーン(日本語版)。
「2000年代あたりから、韓国で流行していたPCのオンラインゲームがここでも流行るようになりました。だが、ここ数年は特にスマートフォンのゲームが好調です。そうしたブームはいくつもあるわけですが、最初から今までずっと根強い人気を維持しているのはやはりコンソールゲームです」
そして、コンソールゲームにおいて、任天堂やソニーといった日本のゲーム企業の存在は欧米以上に大きい。近年、日本のゲームが苦戦している地域も多いが、台湾では今も日本のコンソールゲームには相当のブランド力があり、文化的にも馴染みやすいらしい。
「台湾人はありとあらゆるタイプのゲームを受け入れることができる」
「台湾人ゲーマーの大きな特徴として挙げられるのは、日本のゲームが文化的に受け入れやすいところです。だが、台北ゲームショウで出展されているゲームを見てもわかるように、台湾人は同時に欧米のゲームにも興味を示し、韓国のオンラインゲームもファンがいて、そしてスマートフォンゲームが大好きな人も大勢いる。台湾人はありとあらゆるタイプのゲームを受け入れることができるのです」とJesse Wu氏は語った。
日本はここ数年、やっと欧米のゲームを遊ぶプレイヤーが増えたように思えるが、それには長い時間がかかった。どうしてだろうか。日本がかつて世界を圧巻したほど豊富なゲームカルチャーをもち、それが深く根付いていることが大いに関係していると思われる。自国のゲームに対する誇りも、他国のゲームをプレイする機会を減らす要因に成り得るのだ。日本のゲームを愛する私自身も、どうしてもそれらが先に気になってしまうきらいがある。どのゲームもフラットな目線で見られる台湾人の姿勢から学ぶところも多い。

日本のゲームが人気な理由とは?

それでも、台湾人にとって日本のゲームは特に馴染みやすいらしい。「龍が如く」シリーズがなぜ台湾でそこまで受け入れられるのか、名越監督に聞いてみた。
「日本の街並みや日本人という存在は同じアジア人として非常に親近感があると思います。台湾は親日家も多いので」
「龍が如く」シリーズの主人公・桐生一馬。
「モンスターストライク」を運営するXFLAG スタジオの木村総監督も親日である台湾が日本の商品を売りやすい地域であるとし、さらにモバイルゲームの市場も類似性が高いという。それは「モンスターストライク」のような"ミッドコアゲーム"を受け入れる体制がいち早く整ったからだという。木村総監督の言うミッドコアゲームとは、主にスマートフォンデバイスで遊ぶゲームで、簡単に始められて、長くやり込めるゲームのことだ。同氏曰く、欧米ではその概念がまだ薄いが、2016年の「Pokemon GO」で漸くこのゲームカルチャーに対する理解も生まれてきていると発言した。
「モンスターストライク」を手掛けるXFLAG スタジオの総監督・木村弘毅氏
(台湾人ゲーマーは)日本のゲームのビジュアルに惹かれるようだ。
日本のゲームのどこに惹かれるのかを台北ゲームショウの来場者に聞いてみた。「キャラクターが可愛いから」という単純な理由から、「日本のゲームの世界観は独自性があって楽しい」、「アニメや漫画からの影響が感じられて好き」と言った様々な理由が上がった。だが、それらには一つの共通点がある。彼らが日本のゲームを選ぶのはゲームプレイやレベルデザインなどが優れているからではなく、日本のゲームのビジュアルに惹かれるようだ。逆に言えば、多くの欧米ゲーマーが日本のゲームを敬遠しがちなのもまた、そのビジュアルに馴染めないからだと聞くが、目で見て親近感が湧いたり、違和感を覚えたりするのはまさに文化の距離によって決められることだ。

マリオにゼルダを探すべく、台北市内のサブカルスポットを探索

「ファイナルファンタジー」、「龍が如く」、「バイオハザード」、「メタルギアソリッド」。台北ゲームショウ2017に出展があるかどうか関係なく、最も好きな日本のIPは何かと聞いたとき、最もたくさん上がったのはこれらのタイトルだ。日本の王道が並ぶオーソドックスなリストと思われるかもしれない。だが、そこには任天堂のIPが1つもない。台湾では任天堂のゲームは人気がないのだろうか?
台北駅の地下街はサブカルスポットとして有名だ。ゲームショップが並ぶだけでなく、フィギュア、アニメ、漫画などの販売店が軒を連ね、さらにメイド喫茶に執事カフェまである。ここにあるゲームショップを見てみると、任天堂ハードのソフトが並ぶ商品棚はPS4やXbox Oneと同等のスペースを占め、さらにはamiiboやマリオにゼルダなどのグッズも充実している。ゲームショウを訪れるタイプのゲーマーと任天堂ファンがいささか異なる人種である場合が多いのもまた、台湾と日本が似ているらしい。そもそも台北ゲームショウに任天堂は出展していないので、任天堂ファンは足を運ばないのだろう。
現地のプレイヤーたちにサンドバッグ扱いされて一方的にやられてしまった。
台北市内には他にもゲームスポットがいくつかある。中古ソフトも充実している忠孝新生の電気街はミニ秋葉原と言える。渋谷を彷彿とさせる若者の街、西門町の雑居ビルの最上階にはTom's Worldというゲームセンターがあり、ここではデート気分でカジュアルにエアホッケーやレースゲームを楽しむカップルも少なくないが、本格的に「ストリートファイター」に「鉄拳」といった格ゲーに励むゲーマーもいる。筆者は「ストリートファイター」にちょっとだけ自信があるが、2014年にTom's Worldを訪れた際は「スーパーストリートファイターIV」で現地のプレイヤーたちにサンドバッグ扱いされて一方的にやられてしまった。ちなみに台湾はGamerBeeというプロ格闘ゲーマーがいて、最高の舞台として知られるEVOで「ストリートファイター」部門において2度も2位の入賞経験を持つ凄腕だ。

セガが台湾市場に力を入れる理由

ゲームをはじめとする日本のサブカルチャーが台湾の人々に受け入れられているのは何も最近からのことではない。筆者と同世代の20代30代の台湾人のほとんどは、日本の漫画、アニメ、ゲームと触れ合って育っている。ではなぜ、日本の大手ゲーム企業は最近になって特に本格的に台湾市場を捉えているのか?
積極的に台湾や香港の市場向けにゲームをローカライズしているセガに話を聞いた。「ぷよぷよ」シリーズのプロデューサーの細山田水紀氏が台北ゲームショウ2017に参加した主な理由として挙げられるのは「ぷよぷよテトリス」を台湾で発売することになったからで、それを宣伝するためだろう。
「ぷよぷよ」シリーズのプロデューサー・細山田水紀氏。
「ぷよぷよ」シリーズがセガのIPになってから、同シリーズの初めての台湾における正式ローカライズであるという。では、「ぷよぷよ」は台湾において知名度がないのかというと、そうではない。台湾には日本の製品版をそのまま購入できるほか、以前までは海賊版も流通していたからだ。だが、台湾人は一流の先進国として裕福になり、価値観にも変化が表れている。
「ちゃんと製品版のソフトを買いたいという意識が今の台湾人にはしっかりとあります」と台北ゲームショウ2017を主催するJesse Wu氏も言っている。
10年前だと日本の台湾における売り上げの2、3%がいいところでした。今は約20%になっています
「10年前だと日本の台湾における(ゲームの)売り上げの2、3%がいいところでした。ところが、今は約20%になっています」と「龍が如く」シリーズの名越監督も言及した。
「セガはもともと、全世界を視野に入れてゲームを作る会社です。近年では『マリオ&ソニック at オリンピック』シリーズが良い例だと思います」と細山田氏は話した。今後は今まで以上にアジア市場のニーズを考えてゲーム作りに励む必要があると感じているとのこと。
ところで、「ぷよぷよテトリス」は北米でも展開される予定だという。パズルゲーム好きの中には「ぷよぷよ」が大好きなニッチ層がいるとはいえ、海外で数字を作るのは難しいとされる「ぷよぷよ」シリーズ。ところが、世界的な知名度を誇るテトリスのブランド力は大きい。「ぷよぷよテトリス」は世界の人々が「ぷよぷよ」の楽しさと触れ合うきっかけになるかもしれない。

結果を求める者、旅を楽しむ者

「他に何か、日本人ゲーマーと台湾人ゲーマーの違いはありますか?」とJesse Wu氏に聞いてみたが、面白いことを話してくれたので最後に紹介したい。
台北ゲームショウ2017を主催する団体のCEO、Jesse Wu氏
「一般論にはなってしまいますが、台湾人は結果を求めるゲーマーが主流だと思います。日本人は結果よりも、ゲームをプレイする過程そのものを楽しむのではないでしょうか」
台北ゲームショウ2017は確かにいわゆる"雰囲気ゲー"が少なかったように思えるし、「人喰いの大鷲トリコ」を注目しているタイトルとして挙げる人が1人もいなかったこともそれに起因しているのかもしれない。

台湾ゲームショウ2017は1月24日まで開催されている。筆者は現地でプレイした台湾のインディーゲーム台湾発のVRレースゲームなどについても書いているので、ぜひ読んでみてほしい。